図録本 寺社絵の世界 中世人のこころを読む
大分県立宇佐風土記の丘歴史民俗資料館
平成7年
99ページ
30x21x0.8cm
※絶版
中世日本において、神の鎮座する聖なる空間を描いた多彩な寺社絵、
宮曼荼羅、縁起絵、参詣曼荼羅を展観した展覧会図録本。
国宝・重要文化財など神仏習合・垂迹美術・密教美術・中世の仏教美術を代表する寺社参詣曼荼羅を中心に、
カラー写真図版・トレース図による図解、作品解説を付した、大変貴重な資料となる図録本。
【序文より】
日本の中世は、日本古来の神の世界と融合した仏教が、最も多彩にそして本格的に展開した時代であった。そのなかで、「仏法は王法により弘まり、王法は仏法により保つ」(『文覚四十五箇条』)とあるように、仏法は政治権力と密接な関係を持つに至った。ここでいう仏法は寺社を指しており、寺社は公家や武家の勢力と対抗しうる一個の社会的・政治的な勢力となったのである。中央の大寺社を中心に組織された「寺社勢力」は、中世を特徴付ける存在であった。
寺社の姿を描くこと。これは、以上のような状況をうけて、生まれたものであった。人々の信仰をよびさますために、あるいは領地の境界を明らかにし、他の勢力から守りそれを維持するために、さまざまな目的から寺社の姿を描いた絵画―寺社絵―は作成されたのである。また、これらは仏や神の鎮座する聖なる空間を描いたものということができ、なかでも人々の祈るこころをよびさますための寺社絵は宮曼荼羅や縁起絵そして参詣曼荼羅と多彩である。信仰のための絵画が、このように多彩な展開をみせたのは、わが国固有のものであり、ここには寺社による広汎な布教活動の軌跡が示されている。寺社絵は近世に至っても描かれているが、それが社会のなかで生命力を持ち、最も光彩を放ったのは何といっても中世においてであった。
今回の企画展は、こうした寺社絵を取り上げ、中世寺社による諸活動、特に布教活動の在り方を探るとともに、こころの安穏を求めて寺社に寄せた中世人の想いをも追究しようとするものである。「宗教の時代」とも呼ばれた中世、寺社勢力は聖俗両界にわたって人々の生活に影響を及ぼしていたこと、そして寺社に祈りを捧げた人々の姿は、かたちを変えつつも現在につながるものがあることを、この展示から少しなりとも感じ取っていただければ幸いである。
【目次より】
はじめに
図版・解説
曼荼羅 聖なる空間の表示
寺社の領域 伽藍と境内
鎮西の寺社絵
寺社参詣 参詣曼荼羅 寺社へのいざない
寺社縁起 絵巻が語る寺社の由諸と霊験
展示品リスト
主要参考文献
謝辞
【凡例より】
この図録は、大分県立宇佐風土記の丘歴史民俗資料館が、平成七年度秋季企画展として開催した「寺社絵の世界」の展示解説図録である。
図録の順序および図版の順序は、おおむね展示の流れに沿っているが、展示空間の制限から、やむを得ず展示順になっていないところもある。
図版は、展示した資料(名称の上に展示番号を付す)のほかに、関連資料などを参考図版として収録している。また、一部の資料については図版が掲載され
ていても、展示替えのために会場に陳列されていない場合もある。
展示資料のうち、●は国宝、○は国指定重要文化財、○は同重要美術品、△は県指定文化財、◇は市指定文化財を示す。法量の単位はセンチメートルを用いた。
出品資料名は、必ずしも指定名称と一致しない。
本文は、渡辺文雄と楼井成昭が分担執筆し、図版の解説は。当館の研究員が分担した。その分担は左の通りである。
曼荼羅 渡辺文雄・櫻井成昭
寺社の領域 原田昭一・真野和夫・櫻井成昭
鎮西の寺社絵 櫻井成昭・真野和夫・渡辺文雄
寺社参詣 櫻井成昭・段上達雄・渡辺文雄
寺社縁起 渡辺文雄・段上達雄・櫻井成昭・山田拓伸
トレース図については堀優子(当館職員)が、また表紙デザインならびに図録写真の一部は段上達雄が担当し、本書の編集は柳井が行った。
【作品図版解説より 一部紹介】
吉野曼荼羅 一幅
奈良県 如意輪寺
紙本著色 縦二二五・七 横一八一・五
室町時代
吉野は熊野と共に山岳修験の霊地として知られ、金峰山に蔵王権現を祀り、金峰山寺と総称された。
画面中央の上部に蔵王権現を大きく描き、その右下に役行者と前鬼後鬼を配置する。この図は、役行者が大峰山を開いた時、釈迦・千手観音・弥勒の三尊が祈請によって現れたが、役行者が斉世利民の所願に沿った仏の出現を祈ったところ、青黒色の忿怒身の蔵王権現が湧出したという説話を表したものである。
背後の最上部には金峰と大峰の山塊と八大童子を描き、下方には吉野から金峰へと続く景観を俯瞰的に描写している。最下部には峰薬師と思われる堂が描かれ、吉野山の黒門、発心門の銅鳥居、二王門、四天門、蔵王堂、多宝塔、天神宮、経蔵、観音堂、佐抛宮、勝手宮、子守社、修行門の二鳥居、金峰神社、蹴抜塔。牛頭宮、安禅寺本堂蔵王堂、多宝塔、奧院正面堂などを描いている。
この作品以外の吉野曼荼羅は垂迹曼荼羅で神仏像と景観を描くだけであるのに、これだけは参詣風俗を描いており、垂迹曼荼羅と参詣曼荼羅との中間に位置すると考えられる。
吉野曼荼羅トレース図より
1蔵王権現
2役行者
3あんせん寺(安禅寺)
4てんしん之宮(天神宮)
5きやうしゃとう(行者堂)
6さなき之宮(佐抛宮)
7かつての宮(勝手宮)
8いなり明神(稲荷明神)
9かうどう(講堂)
10てんしゃう大神(天照大神)
11せそんじ(世尊寺)
12こもりの宮(子守宮)
13にをもん(仁王門)
14してん(四天門)
15がくもん(学問)
16くわんをん堂(観音堂)
【展示品リストより】
聖なる空間
両界曼荼羅図 2幅 岡山県英田町長福寺 南北朝時代
当麻曼荼羅図 1幅 大津市西教寺 鎌倉時代
浄土変相図 1幅 大津市聖衆来迎寺 南北朝時代
六道絵 2幅 同 上 鎌倉時代
六道絵(模本) 1幅 同上 江戸時代
大神宮御正体厨子 1基 奈良市西大寺 鎌倉時代
生駒宮曼荼羅図 1幅 奈良国立博物館 鎌倉時代
山王宮曼荼羅図 1幅 同上 室町時代
春日宮曼荼羅図 1幅 大津市石山寺 鎌倉時代
春日社寺曼荼羅図 1幅 大阪市立美術館 室町時代
石清水八幡宮曼荼羅図 1幅 神奈川県立歴史博物館 室町時代
寺社の領域 ~伽藍と境内~
祇園社絵図 1幅 京都市八坂神社 元徳2年(1330)
西大寺寺中曼荼羅 1幅 奈良市西大寺 室町時代
下鴨神社絵図 1幅 京都国立博物館 室町時代
日吉山王社絵図 1幅 大津市延暦寺 室町時代
称名寺絵図(複製) 1幅 神奈川県立金沢文庫(原本は称名寺)元亨3年(1323)
極楽寺絵図 1幅 神奈川県鎌倉市極楽寺 室町時代
鎮西の寺社絵
東妙寺井妙法寺境内絵図 1幅 佐賀県三田川町東妙寺 鎌倉時代
福満寺古図 1幅 佐賀市福満寺 室町時代
聖福寺絵図(複製) 1巻 福岡市博物館(原本は聖福寺) 室町時代
観世音寺絵図 1幅 福岡県太宰府市観世音寺 室町時代
宇佐宮古図 1幅 大分県宇佐市宇佐神宮 室町時代
上宮仮殿地判指図 1幅 同上 鎌倉時代
宇佐宮井弥勒寺境内指図 1幅 同上 室町時代
薦神杜縁起絵 3幅 大分県中津市薦神社 江戸時代
志賀海神社縁起 3幅 福岡市志賀海神社 南北朝時代
観興寺縁起(模本) 2幅 福岡県久留米市観興寺 江戸時代
那智参詣曼荼羅 1幅 和歌山県田辺市闘鶏神社 桃山時代
那智参詣曼荼羅 1幅 大津市西教寺 江戸時代
笠加熊野比丘尼関係資料
(熊野権現絵巻3巻と護符版木3点)岡山県個人 江戸時代
粉河寺参詣曼荼羅 1幅 和歌山県粉河町粉河寺 江戸時代
清水寺参詣曼荼羅 1幅 滋賀県個人 室町時代
吉野曼荼羅 1幅 奈良県吉野町如意輪寺 室町時代
富士参詣曼荼羅 1幅 静岡県富士宮市富士山本宮浅間大社 室町時代
富士参詣曼荼羅 1幅 同上 江戸時代
法観寺参詣曼荼羅 1幅 京都市法観寺 室町時代
竹生島祭礼図 1幅 大和文華館 江戸時代
伊勢参詣曼荼羅 2幅 三井文庫 江戸時代
須磨寺参詣曼荼羅 1幅 神戸市須磨寺 室町時代
西国三十三所順礼札 6点 大津市石山寺 室町~江戸時代
縁起絵巻~由緒と霊験の世界~
一遍上人絵伝 巻9 1巻 京都市歓喜光寺・神奈川県藤沢市清浄光寺 鎌倉時代
遊行上人縁起 乙巻 1巻 東京国立博物館 南北朝時代
清水寺縁起 中巻 1巻 同上 室町時代
石山寺縁起(模本) 2巻 大津市石山寺 江戸時代
聖観音立像 1躯 大分県宇佐市大楽寺 南北朝時代
八幡宇佐宮御託宣集 2巻 大分県宇佐市宇佐神宮 室町時代
笠置寺縁起絵巻 上巻 1巻 京都府笠置町笠置寺 室町時代
由原八幡縁起絵巻 2巻 大分市柞原八幡宮 室町時代